謎のビラ

 

都内の某駅付近で、とある不動産店のチラシを手に入れました。

 

見ると、なぜか物件情報のほかに説教のようなものが載っています。

なんとなく読んでみて、驚きました。全然意味がわからないんです

 

不動産ビラの文章

 

 

こちらです。

全文引用します。

 


 

「強い」とは

 

1+1=

こう聞かれると

貴方はどう答えますか?

そうです

殆どの方が「2」と答えるでしょうね

 

「強」いとは

「つよい」と読み

「したたか」とも読みますよね

「したたか」その意味は

「とても手強い」

これが一般的となってるようです

 

それ以外にも

「粘り強く他からの圧力に屈しない」

「強く、しっかりしている」等々ある

要するに「負かすことができない」という意味

それは、こっちの「思うようにならない」という事

総じて、「一筋縄でいかないという事」

 

ということは

世の出来事の数々を

1+1=2、的思考をしないという事

一方の「1」が、リンゴで

もう一方の「1」が、空気かもしれない

そうです、先ずは一旦立ち止まって

相手からの見せかけの問いの本質を見抜く努力をしよう!

それが「強い」ということだから

 


 

どういうこと?

 

いかがでしょう。

私は一読して「…………………ん…?」となりました。一文一文は簡単なのに、最終的に何を言いたいのか全然わからなくなっている。気がついたら全然見知らぬ街に迷い込んでたみたいな気分です。何が言いたいんだ。

しかし、わからないまま終わるのは嫌だ、とやなせたかしも言っているので、今回はこのチラシの意図をじっくり考えてみたいと思います。

 

 

箇条書きにしてみる

 

どうしてこんなにわからないのか。

何度か読み返して混乱するポイントを探してみたところ「ということは、」「そうです、」等、前の論理を踏まえた上で使う言葉の部分でつまづいている自分に気づきました。書き手はわかってるけど私はわかってないことがあるみたいです。

 

とりあえず構造をわかりやすくするために、箇条書きに直してみます。

 


 

、「1+1=」と聞かれたら、ほとんどの人は「2」と答える
、 「強い」は「つよい」と読むが「したたか」とも読める
、「したたか」の意味は、一般的には「とても手強い」である
、「したたか」の意味は3のほかに、「粘り強く他からの圧力に屈しない」「強く、しっかりしている」などがある
、「したたか」の意味は「負かすことができない」である
、「したたか」の意味は「思うようにならない」である
、「したたか」の意味は総じて「一筋縄ではいかないという事」である
、「したたか」とは「世の出来事の数々を1+1=2、的思考をしないという事」である
、(1+1の)一方の1はリンゴで、もう一方は空気かもしれない
10、一旦立ち止まって相手からの見せかけの問いの本質を見抜く努力をすべき
11、10ができることが、強いということである

 


 

なんだかまだよくわかりません。はわかります。もまあわかります(「強い」を「したたか」と読んだら「したたかい」になっちゃうだろ、とは思うけど)。

そして3、4、5、6、7、8は全部「したたか」の意味の解説です。このへんから決定的に迷いの森に足を踏み入れた気がします。

あと「とても手強い」とか「粘り強い」とか「強くしっかりしている」とか、「強い」の説明の中に「強い」が入ってしまっていて微妙に循環してるのも気が散ります。

 

「強い」連想ゲーム

 

何度か読み返すと、連想ゲーム的に意味を説明しているのだな、ということがぼんやりわかってきます。

 

「強い」は

 

 

「したたか」と読める

 

↓「したたか」は一般的な意味では

 

「とても手ごわい」「粘り強く他からの圧力に屈しない」「強く、しっかりしている」

 

↓それってつまり

 

「負かすことができない」

 

↓それってつまり

 

「思うようにならない」!

 

↓今までのをまとめると

 

「したたか」=「一筋縄ではいかない」ということ!

 

↓それを「1+1=」の例に当てはめると

 

「したたか」=「1+1=2」と考えないようなこと!!! それは「強い」ということ! 強くなれ!!!!

 

みたいな感じです。

 

中間をすっ飛ばせば、「強い」とは「一筋縄ではいかないこと」だ!になります。

この結論が先にあって、そこに至るように書き進めていった結果、思いのほかものすごい遠回りになってしまったのではないでしょうか……。

 

「1+1=」の意図

 

「強い」が「一筋縄ではいかないこと」なのはわかりました。

まだわからないのは「1+1=」の解釈です。これに関しては箇条書きしてもわからないので推理するしかありません。

 

「先ずは一旦立ち止まって」というフレーズからして、「1+1=2」は「固定観念にとらわれた価値観」を示しているのではないかと思います。誰もが同じことを言う右へ倣え的な思考停止を「みんなが1+1=2と答える」という例で示しているわけです。そしてこれが、おそらく混乱の大元です。

 

なぜなら、ふつう数学は厳密にただ1つの答えを導く学問だからです。2進法で答えるとか「田んぼの田」とトンチ的に答えるとかの例外を除くと「1+1=2」に決まってます。

 

だから同じ「みんな同じことを言う」例でも、

 

「志望動機を聞かれて『御社の社風に惹かれ〜』と言う」

 

ようなのと

 

「『1+1=』を『2』と答える」

 

ようなのは、似てるようで全然違うのです。今回のテーマでは、前者のような例をあげたほうが明らかに伝わりやすいと思います。

 

「(1+1の)一方の『1』が、リンゴで もう一方の『1』が、空気かもしれない」という言葉も「リンゴ?? 空気??? どういうこと?」となってしまいますが、これもおそらく単語のチョイス自体に深い意味はなく「単純に足し算できないような組み合わせもある(ので、必ずしも2と答えられるわけではない)」と言いたいのだと思います。

 

しかし普通は「1+1=」と聞かれる文脈で「リンゴと空気」を想定するほうが不合理なので、謎が生まれてしまっています。それにしてもなぜリンゴと空気……。

 

 

結局何が言いたい文章なのか

 

・世の中には問いの本質を考えずに答えを出している人が多い

・強さとは、一筋縄ではいかないということ

・一旦立ち止まって本質を見抜く努力をして強くなろう

 

みたいなことだと思います。

 

 

どうしてわかりにくいのか

 

この文章がわかりにくい原因がわかってきました。

 

何が言いたいかわからない

「1+1=」の話を始めたかと思ったら「強い」の意味に移り、そこから連想ゲームみたいなものが始まる構成は、「これ、何の話?」という印象を与えます。関係なさそうな話題を出しながら繋げて一つの結論にまとめていく手法は確かにあるのですが、ちょっと散漫になりすぎているようです。

 

最後のほうの「相手からの見せかけの問いの本質を見抜く努力をしよう!」という文章も、なんか違和感があります。たぶん本当に言いたいのは「相手の問いから見せかけの答えではなく本質を見抜く努力をしよう!」じゃないかと思います。

 

言いたいことが決まっていれば、こういう混乱は減らせるはずです。

 

たとえ話が不適切

「1+1=」がこの話の重要なキーワードですが、言いたいことのたとえとしては不適切なので、別の例を探したほうがよかったと思います。

「リンゴ」「空気」という言葉が終盤で急に出てくるのも、混乱をより大きくしています。

 

根拠が弱い

事実なのか主観なのかわからない主張が多いです。

 

・「強い」とは「一筋縄ではいかないこと」である、という定義が一般的でなく、その根拠も連想ゲームの結果以外にない

・なぜ「1+1=2」的思考がよくないのかがわからない

・なぜ「一筋縄ではいかない」人は『1+1=2』的思考をしないのかが曖昧

 

…など。

 

全体的に「なんでそう言えるのか」の部分が弱いのに「もうおわかりですね?」みたいな雰囲気はあるため、言いたいことがわかったとしても「それを信じていいのかなあ」という気分になります。

 

 

読みやすくするには

 

ということで、読みやすくするために

 

・テーマを意識して、余計な遠回りを削る

・たとえ話がテーマとかみ合うようにする

・主張の根拠を明確にする

 

 

この3つを意識すれば、だいぶよくなるはずです。

 

たとえば、

「強くなろう。強いとは一筋縄ではいかないことだ」

と言いたいのであれば、「みんなが右へ倣え的な結論を出している環境で粘り強く戦った人」のエピソードによってグッと説得力が増すのではないでしょうか。

ベタですが、地動説を唱えて異端審問にかけられたガリレオなどまさに「一筋縄ではいかない、強い人物」と言えると思います(負けたけど)。

 

 

意図が伝わる文章書くの難しすぎ

 

 

最初は意味不明すぎて笑っちゃいましたが、まじめにじっくり読んだら言いたいことはわかりました(たぶん)。ただ、書いた人が特別下手というわけではなく、そもそも文章で意図を伝えるのが難しいんだと思います。

 

油断せずしっかり推敲したいものですね。

 

 

 

 

 

 

真の強さ、それは柔道。