「ももたろう」の絵本は数多くありますが、最も出版部数が多いのが福音館書店の「ももたろう」です。

 

1965年の初版以来100万部以上の部数を誇っている「レジェンドオブ桃太郎」といえるでしょう。

 

 

 

 

福音館書店元社長の松居直(まついただし)氏が文を、スーホーの白い馬などで知られる赤羽末吉氏が画を担当しています。松居直氏は日本の絵本史の礎を築いたすごい方です。

 

 

そんな福音館書店の人気絵本「ももたろう」の結末について、どうしても腑に落ちないことがあります。

 

絵本『ももたろう』の不可解な結末とは

 

うちでも、こちらの福音館書店の「ももたろう」をよく子どもに読み聞かせをしてきました。しかし、鬼退治を終えた桃太郎が船で帰るシーンを見たとき、子どもがこんなことを言い出しました。

 

 

子「お母さん、鬼も一緒に船に乗ってるね

 

 

私「何言ってんの、鬼は鬼ヶ島で一生軟禁でしょ…島から出れるわけないじゃんっって」

 

え゛!!?

 

 

福音館書店「ももたろう」p35より抜粋

 

赤鬼と青鬼が船に乗っている!!??

 

 

マジで!?こわっ!なにそれ?!!なんでついてきてるの??ストーカー?鬼、上陸するんじゃないの!?報復???ヤバッ!!!逃げてぇッ!!!ももたろう逃げてぇぇッ!!!

 

 

 

 

しかも、よく見ると鬼ヶ島に行くときに乗ってた船と形が違います。

 

 

BEFORE(往路)

福音館書店「ももたろう」p25-6より抜粋

 

 

AFTER(復路)

福音館書店「ももたろう」p35より抜粋

 

船が格段に豪華になっている。

 

 

これはつまり

ということ?

 

 

え? 鬼の船? なんでなんで? 送ってあげると見せかけて…的なやつ? 送り狼的な? ん? 鬼が狼ってややこしいわッ!! てか桃太郎の船はどうなった? 鬼はどうやって帰るの? 桃太郎の船持ってっちゃうの?

 

 

しかし、作中には鬼が船に乗っていることや鬼の船になっていることについては一切触れられていません。

 

 

本作品はとても好きな作品ではありますが、どうしても、鬼が船に乗っている点が腑に落ちず、もやもやした気持ちを抱えたまま今日に至っております。

 

 

ここで質問。

 

 

みなさんならどのようにお答えになりますか…?

 

 

ここで福音館書店版「ももたろう」を整理しよう

 

さて、もう一度、福音館書店版「ももたろう」の結末を整理しましょう……。

 

・鬼退治を終えた桃太郎は、サル・キジ・イヌとお姫様を連れて船に乗った。

・船には赤鬼と青鬼も一緒に乗っている。

・船は鬼たちのもので、桃太郎が乗ってきた船ではない。

・桃太郎たちは幸せな結末を迎えている。

 

では、質問です。

 

桃太郎と同じ船に乗っている鬼の目的は何なのか。

 

 

私が考えついた回答は次の通りです

 

・ただ送り届けただけ

・桃太郎に鬼の船をプレゼントするため

・送ると見せかけてスパイ活動

・送ると見せかけて上陸してからのガオーッ!!

・もうすこし……桃太郎と一緒にいたかった

 

みなさんはいかがでしょうか。

 

 

謎を解く鍵は著書にあり

 

さて、このももたろうの謎を解くため、作者である松居直氏の手記を図書館で集めました。

 

作者の松居氏は「ももたろう」になみなみならぬ情熱をささげており、さまざまな手記において製作秘話を語っていました。著書の中から「鬼が船に乗った理由」のヒントとなる得るものを3つ紹介します。

 

以降は超真面目なトーンの記事になりますので、心の準備をお願いします。

 

鍵その1:かつてのももたろうの姿を取り戻したい

松居氏が「ももたろう」を出版するに至った背景には、先の戦争が関係しています。

 

昔話はわが国においては、明治維新以降の極端な国家主義のなかで、国策に利用される形で国定教科書に載せられていました。特に「桃太郎」などは、軍国主義の象徴のように扱われてきました。

松居直(2003年)「絵本のよろこび」NHK出版,p207

戦時中はスターだった桃太郎。しかし敗戦を機に状況は一変し、まるで腫れもののような存在に…。

 

さらには、脈々と語り継がれてきた昔ばなし自体が、封建的なものというイメージがつき、絵本界のなかでも日陰に追いやられてしまったそうです。

 

昔ばなしが見直されるようになったのは1950年代後半のこと。アメリカ文化の波にのまれゆくなかで日本人は改めて「日本とは何か」「日本文化とは何か」考えるようになりました。

 

当時すでに児童文学に関わっていた松居氏も「このままではいけない」と立ち上がります。「ももたろう」を再び子どもたちに届けたいという思いで、桃太郎の歴史を掘り下げ、各地の伝承話を研究しながら、現代に残すべき桃太郎の絵本作りが始まったのでした。

 

鍵その2:本来の「おに」は人間の敵ではない

松居氏は「おに」についても言及しています。私の心のなかでは鬼=極悪卑劣野郎でありましたが、どうやらそうではなかったのです。

 

実は、鬼と言うものに対する解釈が、日本の物語、昔話では非常に歪んでしまっているんです。これは、明治以降にそうなりました。特に教科書なんかに「桃太郎」を入れるようになってからです。鬼というものは、本当に諸悪の根源みたいに言われている。ところが、日本の昔話の、昔のものをしっかり読みますとね、「おに」っていうものはそういうものではないんです。人間と共存しているものなんです」

松居直(2013)「こどもえほんおとな」NPO法人「絵本で子育て」センター,p82より抜粋

中国の「鬼」はとても恐ろしいものでしたが、日本の「おに」はそうではないといいます。しかし、無理やり「鬼」という漢字を当てはめたために、「おに」のもつイメージが歪んでしまったと松居氏は考えます。

 

松居氏は本来の「おに」の姿を日本の昔ばなしに取り戻そうとし、日本各地のお祭りを見て歩きました。「おに」は人間を脅かすだけでなく、ときに人間を守り、楽しいときを過ごして、人と共存してきました。「おに」は怖いけれども親しみを持てる、異文化や異民族のようなものと述べています。

 

 

 

 

秋田のなまはげは鬼ではないようですが、人たちの暮らしを見守るという意味では、本来の「おに」の姿と近しいものがあったのではないかと思います。

 

 

鍵その3:桃太郎は鬼のお詫びとしての宝物を拒否した

もっとも重要な手掛かりは、桃太郎の絵本の中にありました。具体的には、鬼退治後に鬼が桃太郎へのお詫びとして宝物を差し出す、というシーンです。

 

みなさんの記憶のなかの桃太郎は、鬼をやっつけた後、鬼の宝物をもらってめでたしめでたし…ではありませんか。しかし、本作品は違います。

 

 

(鬼は)「おわびのしるしに、たからものは みな さしあげます」と いって、ありったけの たからものをだしてきました。ももたろうは、「たからものは いらん。おひめさまを かえせ」と いいますと、おには、「はいはい」と、おひめさまをかえしました。

福音館書店「ももたろう」p33より抜粋

一見スルーしそうな描写ですが、なぜ、このような表現がされたのでしょうか。答えは著書にありました。

 

 

「鬼の差し出した宝物は、その文化の象徴です。桃太郎は鬼を改心させ、お姫様を救出しに行ったのですから、その目的が達成できた今、戦利品として宝物を持ちかえったのでは、戦争をしたことになってしまいます。(中略)相手方の文化財を戦利品として持ち帰るような歴史は、もう繰り返したくありません。」

松居直(2013)HK出版「絵本のよろこび」p222より抜粋

つまり、桃太郎と鬼は戦争をしたわけではないのです。鬼を改心させること、お姫様を助けること以上は望んではいない、ということでしょう。

 

この文脈からすると、桃太郎が復路で乗った立派な鬼の船についても、おそらく桃太郎は受け取らず、ただ乗船しただけと思われますね。 

 

以上3つの手がかりをまとめると、次の通りです。

 

・著者は人々に伝承されるにふさわしい「ももたろう」に再話した

・鬼=悪者ではなく、人と共存する存在として伝える

・鬼退治は戦争ではない

 

 

【結論】桃太郎と同じ船に乗っている鬼の目的(私見)

以上を踏まえ、桃太郎と同じ船に乗っている鬼の目的は何なのか、極めて個人的な見解を述べると

 

 

 

という結論に至りました。

 

私にそんな発想はみじんにもなかった。おばあさんと一緒に川で心を洗濯したほうがよさそうです。

 

桃太郎も鬼の申し出を受け、一緒に船旅を楽しんだことでしょう。もしかしたら、迎えの船(桃太郎の船)が来るまでは、鬼たちを村に上陸させて、村中を案内したかもしれません。鬼は上陸したって良いんです。そもそも、鬼(おに)はそういう身近な存在だったのですから。

 

作品の結末には、「それからは おにどももこなくなり」とありますが、決して決別したわけではなく、心が通い合った関係であったのかもしれませんね。あるいは、船上で下ネタを連発してしまい「あいつらマジでないから」とお姫様に拒絶されたのかも。あくまでも、想像ですが…。

 

想像できる余地があること、それこそが絵本の醍醐味ですよね。みなさんはいかがでしたか?

 

 

 

おわりに「絵には言葉がある」

つい大人は絵本の字ばかり読んでしまい、絵を雑に見てしまいがち。一方で子どもは字を読めない分、丁寧に絵を観察しています。ときに大人が気付かない点を指摘することもあるでしょう。

 

松居氏は著書の中で「絵には言葉がある」「絵本は絵を読むもの」と繰り返しています。絵本に触れる機会が多い方は、絵に込められた言葉やメッセージを感じながら、作品を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

ちなみに、今回私が導きだした「鬼がなぜ船に乗っているか」という結論について、先日わかりやすく娘に伝えました。質問されてから早2年が経過していましたが、大体理解してくれた模様です。

 

で、「桃の中に赤ちゃんが入っていたのはなんで?」「きびだんごってどんな味?」と立て続けに質問にあいましたが、自分で調べるように念押ししておきました。

 

 

(めでたし めでたし)